カンボジアのボジ子。

カンボジアで2年の仕事を終えて一時帰国中。シェムリアップの美味しいレストラン、手作りごはん・お菓子、たまに観光・旅行ネタ、ダイエット、コスメなど広く浅~~く。

読書感想文。カンボジアが題材の小説、「夢は荒れ地を」を読みました。

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こんなにも、やりきれない気持ちになったのは初めて

そうですね、例えるなら、

「ショーシャンクの空に」で、脱獄して雨に打たれながら両手を広げた所を

狙撃されて主人公死亡。

「ごくせん」、全員中退。

「アルマゲドン」、打ち上げ失敗。

 

それぐらい、最初から最後まで、やりきれない気持ちになる作品でした。

夢は荒れ地を (文春文庫)

夢は荒れ地を (文春文庫)

 

Kindleで購入したので、それが800ページもある超大作だとは気付かず、

夢中でページをめくっていたらいつのまにか話が終わってました。

こんなに、小説に夢中になれたのは、いつぶりだろう。

 

あらすじ

警務隊所属の自衛官「楢本辰次」は、同僚の「越路修介」を探すために

カンボジアにやってきました。

8年前にPKOでカンボジアに来てタケオで道路建設にあたっていた越路は、

撤収時に現地除隊してカンボジアに残り、

妻子が日本で待っているにも関わらず忽然と姿を消してしまっていたのです。

1か月前、越路に似た日本人をプノンペンで見たという情報を得た楢本は、

プノンペンで雇ったドライバー兼通訳の「ヌオン・ロタ」と共に

少ない手がかりの中捜索を進めていき、

売春斡旋を牛耳るベトナム人「グエン・ザン・ドン」と

接触したことがあるとの情報を得ます。

元政府顧問で警察や軍とも太いパイプを持ち、

今ではカンボジア国籍を取得し売春窟を牛耳っているグエン・ザン・ドン。

人ひとりの命など簡単に消してしまうと恐れられる闇の商人との接触など、

人身売買に加担している以外にあり得ない。

「不道徳を一番嫌っていた彼が、何故そんな事を―・・・・」

そうして、ある目的を果たすために越路の影を追いかけていくうちに、

カンボジアの暗く深い闇の部分にずるずると引きずり込まれて行きます。 

 

以下、ネタバレございます。

楢本がここで見たもの

楢本がここにやってきた理由は、越路の妻との離婚届にサインをさせるため。

越路が失踪してから彼の妻の相談にのっているうちに、

楢本と越路の妻のところにも新しい命を授かったのです。

その子が生まれる前に、正式に夫婦になりたい。

越路が離婚届にサインしようがしまいが、

8年も音信不通であれば法的には妻のみの手続きでも離婚は成立します。

しかし、越路本人にその事を話してから、全員同意の上で法的な手続きを踏むのが

実直な楢本にとっての「けじめ」だったのでしょう。

 

越路を追っているうちに、シェムリアップで「カラオケ」という名目で

人身売買をしている日本人の自宅を突き止めました。

越路とも接触があったというその男の家に入ると、

ナイフで喉を抉られた血まみれの死体が転がっていました。

そこにやってきた給仕は悲鳴をあげ、すぐに警察を呼びに行きます。

「見つかったらまずい、逃げましょう」と焦り出す

通訳のヌオン・ロタをよそに、その場に留まろうとする楢本。

”自分にはアリバイがある。血の乾き具合から見れば、

自分が犯人ではないことは明らかだ。"

刑務所に叩き込まれたとしても、自分の身の潔白を証明すればすぐに釈放される。

なんならこの事件に自ら関わり、越路の情報を掴んでやる”

しかし、彼らを待ち受けていたのは、全く機能していない警察、

プノンペンにしか無い鑑識、最初から犯人と決めてかかった取調べ、

そして賄賂の要求。溝のようなマズい飯と、ダニだらけの汚い独房。

人権や尊厳など、この場所には存在しなかったのです。

ある女性の証言と多額の賄賂の支払いによってそこから開放され、

ヌオン・ロタの顔に出来た痣や割れた唇を見たとき、

この国では全ての”悪”が野放しにされていることを理解しました。

 

命の軽さ

上に書いた投獄はほんの序章。

その後はいくつもの視点から物語が進んでいきます。

元ポルポト時代のゲリラで、政府に投降してからはカンボジア王国陸軍大尉になり

村長としての役割も果たしてきたチア・ソミン。

識字率向上のため、学校建設と教育環境の整備に奔走する丹波明和。

そして、妻子に何も告げずに消えた、越路修介。

 

次第に絡み合っていくストーリーの中で、何人もの人が死んでいきます。

人の命を奪い生きていく道を選べば、自分の正義を汚すことになる。

しかし、自分が生きていくためには、そんな事を躊躇っている時間は無い。

 

腐敗しきった国の中では、人権など存在しません。

汚職や賄賂、国外からの巨額の支援金で一部の利権者だけが私服を肥やし、

飢えに苦しむ社会的弱者の命は、ただそれに翻弄されるのみ。

騙し、騙され、裏切り、裏切られ、

人の命などドル札数枚で簡単に消されてしまうのです。

 

正義は、無意味か。 

カンボジアに来た動機からも分かるように、楢本は8年前の越路同様、謹厳な男です。 

その真面目さと日本人としての常識、そして良心は、

この小説の最初から最後まで翻弄され続けます。

 

他の登場人物もそれは同じ。

自分の正義のためならカラシニコフ自動小銃の引金を躊躇い無く引く越路、

識字率向上のために人生を捧げてきたにも関わらず

積み上げてきたものを全て壊され、初めてその手で引金を引いた丹波、

自らの正義を貫き通したことが原因で裏切られ、自分の村に居られなくなり、

王国軍に見つかったら必ず処刑される運命のチア。

それぞれの正義が重なり合いひとつになった結果、彼らの怒りの矛先は

カンボジアを狂わせる「悪の元凶」に向けられます。

 

決して法によって裁かれることの無い悪への「個人的な制裁」の実行。

仮に彼の命を奪うことができたとしても、それで闇が無くなる訳では無い。

それでも、この腐敗しきった国の闇に一石を投じたい。

その行為に動機や理由は無く、明確な答えなど見つけられなくとも、

今までカンボジアで経験したすべてが自分をそうさせている。

 

中盤からラストまでは、

「どうしてこんなにカンボジアの未来のために尽くそうとしている人たちが」と

やりきれない気持ちになります。

800ページのボリュームでも夢中で読み切ってしまえるのは、

理不尽な仕打ちを受け続ける事で強固なものになっていった正義の剣が

大きく振るわれるようなそのストーリー展開だからこそ。

無法地帯と呼ぶにふさわしいこの場所で自分が「正しい」と思うことを

最後の最後までブレることなく貫き通す大変潔い姿が描かれた、

読んでいて気持ちの良い作品でした。

夢を見る人は、かっこいいな。

 

念のため。

私が書くとなんだかややこしい誤解を生みそうなので。(笑

これはカンボジアを題材にして書かれた「小説」に対しての読書感想文です。

政権批判でもなければ、汚職体質についての事実を記したものでもありません。

 

この本に書かれているようなアングラな世界とは

もちろん無縁の場所で生きているので、

15年前のカンボジアがこうだったと言われても全く想像がつきません。

時折古びれたボロボロのトラックに弾痕を見つけたり

警察の方が平然とカラシニコフ自動小銃を持って歩いていたりすると

「ああ、本当に最近まで内戦があった場所なんだなー」と

思うことはありますが・・・。

 

20年に及ぶ内戦が終結し、カンボジア和平東京会議が開かれた、

1990年6月4日から2週間後、

私はかーちゃんの腹の中からギャンギャン言いながら生まれてきました。

調べたところによるとPKOがカンボジアに入ったのが1992年。

活動期間については書かれていなかったものの

越路がPKO開始当初から居たとすれば、現地除隊後8年経過は、最短で2000年。

そのころのカンボジアがこんなだったと言われてもまったく想像がつきませんが、

私が住むシェムリアップの事がとても詳細に書かれていたところを見ると、

まだ行ったことのないパイリンやポイペト、バッタンバンなどについても

そこにある人々の暮らしぶりについてはある程度真実が描かれていると思います。

ストーリーを追いかけていくのとはまた別に、

「私がまだ知らないカンボジア」に触れるきっかけにもなり大変面白かったです。

 

キンドルもあるで。

夢は荒れ地を (集英社文庫)

夢は荒れ地を (集英社文庫)

 

 

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