皆様こんにちは!
カンボジアのボジ子です。
今回の事は、記事に書くか、やめとこうか・・・
とても迷いました。
しかし、色々迷った末、書くことを決めました。
IKTTへ。
IKTT(クメール伝統織物研究所)については、
こちらのブログでも数度取り上げさせていただいています。
2002年、シェムリアップ郊外に
5ヘクタールの土地を取得して始まった
「伝統の森・再生計画」以来、この場所で伝統を創り、
村を守り続けてこられた森本 喜久男さんが、
先日7月3日にお亡くなりになったことを
Facebookでのお知らせを通じて知ることになりました。
以前より、体調を崩されていたのは存じ上げていましたし、
数か月前に放送された情熱大陸でも、
日本に帰って治療を受けられているといった内容が
映っていました。
日本に帰って治療に専念されないのか伺ったとき、
「命は自然の中にあるものだから」と
穏やかに話されていたのが今でも忘れられません。
伝統の森でお会いしたのが22日の午前のこと。
お体にさわらないよう、しばらくお話させていただいたあと、
一緒に行った友人と森の中を散歩して、
また遊びにこさせて下さい、とご挨拶して、
名残惜しい気持ちになりながら帰りました。
その後すぐの訃報だったので、
まだ実感が湧かないというか、
あの時はお元気にしていらっしゃったのにと
どこか信じられない気持ちで居るのが現状です。
このような経緯があり、
ブログに書いていいものかと暫らく考えたのですが、
私は伝統の森が大好きで、森本さんのことも大好きで、
こうやって記事にすることで、
森本さんが創られた素晴らしいものが
誰かに伝わっていくきっかけになれば、と。
そういう気持ちが湧いてきたのを
自分のなかで無かったことにできなかったのと、
なにより、このIKTTの訪問も私にとっては今回の旅行での
大切な思い出のひとつになっているので、
このように旅行記の中にまとめさせて頂いた次第です。
伝統の森は、シェムリアップ中心部から
トゥクトゥクで40分ほどのところにある村です。
2012年秋、私が就職活動で初めてカンボジアを訪れたときは、
雨季の終わりということもあって
それはそれはガッタガタの道を、
「トゥクトゥク壊れるんちゃう?!」と思いながら
揺られていったものでした。
地平線の向こうから砂埃の塊が近づいてくると、
それを巻き上げているトラックとすれ違わないように
赤土の道から森の中へ、身を隠すようにトゥクトゥクごとつっこんで、
トラックの音が聞えなくなって視界が透明になってから
道に戻って再度出発。
そんなことをしながら森に向かったのが懐かしいぐらい、
道もどんどん綺麗になっていて。
先日訪れたとき、
「そういえば、クメール語を話していた鳥はどこに行ったんですか?」と尋ねたら、
「さあ・・・森で何かに食べられたんでしょうねえ。」というお返事。鳥さん。。。
ここは、何もかもが、自然の一部でした。
家で飼っている数匹の猫ちゃんは、
ふら~っと来ては私の鞄で心地よさそうに眠り、
またふら~っとどこかへ消えていく。
地球が24時間で1周まわっているのを忘れるぐらい、
のんびり、ゆったりと時間が過ぎるこの村が、
大好きです。
男手は、家をつくり、畑を耕し、家畜を育て、
染めの材料や蚕の餌になる植物もこの森の中で生まれていく。
村の女性たちは、子供をハンモックで揺らしながら
心地いいリズムでかたんかたんと布を織る。
これは、バナナの皮を細く割いたものを
束にした生糸にくくりつけているところ。
これを染めてはバナナの皮を外し、別の所をくくってまた染めて、
そうやってパターンをつけた糸を織っていくことで
美しいクメール織の模様ができていくのです。
村には、色々な植物が自生しています。
ジャックフルーツやパイナップル、ノニ、ライムなど、
シェムリアップ市街地に住んで居ると
普段は市場でしか目にしないようなフルーツも
あちこちに生っていて、
染料の一部として使われるものもあります。
ひとも、くだものも、家畜たちも、そして丁寧に織られた布も、
カンボジアの大自然のなかのひとつ。
「わたしは土から布をつくる、錬金術師みたいなものでね」と
話しておられたことを思い出します。
黒はアーモンド。
ピンクはラックカイガラムシ。
優しいサーモンピンクはココナッツ。
自然がつくりだす色は、どれも素朴で、美しい。
その色の出し方を知っているのは
カンボジアでクメール織に携わっていた人々。
糸をひく。 染める。
パターンをつける。 織る。
それぞれの行程にプロフェッショナルが居て。
内戦によって途絶えかけたその伝統を取戻し
新しい伝統を創っていくために
尽力した森本さんが居て。
そして布に関わる全ての人に、暮らしがあって。
その暮らしが豊かであれば、良い布が出来る。
その”豊かさ”は、決してお金のことではなく、
もっともっと本質的なこと。
細くて白い糸を吐く様に品種改良された蚕ではなく
黄金のシルクをつくりだす在来種のカンボジュを飼育し、
自然の中でとれる染料を使って、
家族と引き裂いて、工場につめこむ「労働」では
とうてい実現出来ないような丁寧な「てしごと」を、
呼吸の速さで紡いでいく。
(これはどうやって織ってるのかしら~!と、
一緒に遊びに行ったお兄さんのドレッドに興味津々のお母さん。
5年前の写真ですが、とても気に入っています。)
伝統は、守るものではなく、つくるもの。
とても穏やかに語っておられましたが、
その瞳の奥には絶対に消えない炎がありました。
「良い布」は「しごと」で決まるもの。
「しごと」は「人」がするもの。
「人」は「家族」と生きるもの。
「家族」は「自然」の中にあるもの。
地続きになったすべてを、
すべてを、大切にされていた森本さん。
言葉のひとつひとつが、
私の大切な宝物です。
いちから村をつくり、そこで失われかけた伝統を復活させ、
国王から表彰を受けるほどの偉業を成し遂げられた森本さん。
それを感じさせないぐらい、
私のような若輩者にもフランクに接してくださって、
手づくりのお菓子も褒めてくださって、
本当に懐の深いお方でした。
いつもの定位置で煙草をくゆらしながら
優しい目で森を見渡す森本さんに
もうお会いできないかと思うと、
寂しくてたまらなくなります。
森本さん、いつも優しく色々なことを教えていただいて、
本当にありがとうございました。
どうか、ゆっくりお休みになってください。
ゆったりと心地いいカンボジアの風を身に纏っているような
ココナッツで染められたストール。
私の一生の宝物です。
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